人口学によると、世界の国々の人口は19世紀を境にして大きく変わる。
それは「多産多死」⇒「多産少死」⇒「少産少死」という流れだ。
その要因は、衛生状態の改善や医療技術の発達等によるものだ。
そして「多産少死」の時に、人口爆発を経て人口ボーナス期へと向かう。
人口ボーナス期が、どれほど人々を豊かにしてくれるかは、
あの異常なバブル期を思い出せばよい。
因みに、19世紀までこの地球に存在した人口の全てを足しても、
現在は、その約5倍に当たる人口が存在するという。
一般に、日本は明治以降、徐々に人口が増え始めた……と云われる。
人口が増えるということは、寿命が延びるということだ。
そして「国民の寿命は、乳児の死亡率と密接に依存している」
それくらい乳児の死亡率と平均寿命は密接な関係にある、といってよい。
しかし、そのデータを見ると不思議な現象がある。

少しデータを頂こう(厚生省 人口動態統計より)
明治33年 平均寿命44.9歳 乳児死亡率1000分の155
明治44年 平均寿命44.5歳 乳児死亡率1000分の161
大正13年 平均寿命42.7歳 乳児死亡率1000分の142
今から思えば、悲しいくらい短命であるし、乳児の死亡率も相変わらず高い。
しかし大正10年、この辺りから急激にV字回復を見せ、それは今でも続いている。
ここが疑問点だ。
昭和22年 平均寿命52.3歳 乳児死亡率1000分の70
昭和30年 平均寿命65.7歳 乳児死亡率1000分の40
昭和40年 平均寿命70.3歳 乳児死亡率1000分の19
昭和50年 平均寿命74.3歳 乳児死亡率1000分の10
その辺りをとても面白く解説してくれている本が、
「日本史の謎は「地形」で解ける【文明・文化編】」
著者:竹村公太郎(PHP文庫)である。
この保健衛生上の記念されるべき歴史的出来事を巡る旅へと読者を誘い、
「大正10年頃、何があったのか?」という謎に挑むのだ。
結論を云えば、水道水。
それまでの水道水は殺菌されておらず、乳児にとっては命の問題であった。
その証拠に、明治20年に日本最初の水道水が横浜で給水開始されてから、
函館、長崎、大阪、東京、広島、神戸、岡山、下関、佐世保…
日本全国、次々の給水開始と共に下がっていく平均寿命。
この45年間、水道水は殺菌されていなかった。
大正10年に水道水の塩素殺菌が行われてから、その状況を大きく変わる。
それをやり遂げた生化学の最先端の知識を持つ偉人とは…
そして、この大正10年の出来事を境に、日本は世界でも稀な長寿国家となる。
文明の大きな転換が、一人の人間の影響をこんなに受けているとは…
(結論は申しません)
なかなか面白い本だった。