父が母を温泉に誘い、母はふざけんじゃないよと激昂しています。
父は数カ月に一度、私と兄を食事に誘います。
その席で終わりのない父の愚痴を聞いています。
普通の家族ならばなんてことのない事ですが、
父と母は私が小学生の時に離婚しています。
それ以来、20年ぶりに父はよく連絡をしてくるようになりました。
新たな家庭で居場所がないらしく、今になって
ほったらかしていた元の家族に悪びれもなく甘える父。
どうしようもない男です。
でも私の中では「父」ではなく「他人のおじさん」のような
感覚でいるので、だらしなく酔っ払った姿を見ても
不思議なもので、嫌な感情は一切湧いてきません。
むしろ、これで両親が、当時のいざこざを水に流し、
旅行なんて行ったら面白いな、と秘かに楽しんでいます。
母は完全に拒絶していますが、これまた面白いことに、
兄や私や息子も一緒であれば行ってもいいよなんて言い出し、
叶うはずもないけれど、おどろおどろしい光景を想像して
兄と思わず吹き出したりしました。
父は癌で過去に何度か手術をしたそうです。
気丈に振る舞ってはいるけれど、確実に近づく死の影に
なにか突き動かすものがあるのかもしれません。
万が一の時も、私達に一報が届くこともない。
父の人生はどんなものだったのかとふと思う。
家族であって家族でない。不思議な家族。
END