失くして導かれた進化 (井手)

我が家の愚息は幼い時から動物が大好きだった。

犬は元より、ウズラ、ウサギ、鶏、カブトムシなど飼いまくっていた。

大学も動物学科?だったか、研究という名を使った趣味の延長のようだ。

今は、チーターに惚れ込んでいて南アフリカに行くことが夢らしい。

野生のチーターが見られるらしい。

 

昔から動物園にはよく通った。

動物園に行くと、チンパンジーやゴリラやオラウータンなど霊長類の豊かな表情と

器用に両手を使う仕草に、どうしても我々祖先の姿を想像してしまう。

しかし、似ているけど明らかに人間とは違う。

完全な直立歩行、大きくて賢い脳などは、人間だけのものである。

これは、人間だけが進化の過程で獲得したものだから。

そう考えていた、それが普通だろうと

 

 

 

しかし、最近の人類学や進化生物学の研究で遺伝子解析技術が使われだしてから

どうもそれは違うのではないかと分かりつつあるようだ。

遺伝子解析は凄い。

ヒトのゲノムと他の哺乳類のそれを比較したら、

明らかに人にだけ失われたDNAがあることが分かってきた。

それは、遺伝子をオン・オフする、所謂スイッチだという。

そのスイッチを欠損したお蔭で、脳の成長を促し、直立歩行を促進したらしい。

 

ヒトとチンパンジーのゲノムを比較したら、

タンパク質作りの指令を記した部分については99%が同じである。

しかし、タンパク質をコードする遺伝子を含まない領域では、96%だけが同一なのだ。

99%96%、この3%の違いは何か。

嘗ては、タンパク質をコードする遺伝子を含まない領域を「ジャンクDNA」と呼んだ。

現在は、遺伝子をスイッチする領域であることが判明し、この領域の重要性が分かった。

ヒトとチンパンジーのゲノムの違いは、スイッチの差だった。

 

ある能力を獲得するということは、何かを失くすことかもしれない。

失くすことで、手に入る。

人類の進化は、後世の人々が思い描いたようにはいかないようだ。

 

 

では。