それぞれの人生 (井手)

 

少し前にネットニュースで見たのだが、少し考えさせられた話。

私は離婚経験がないが、現在は4割程度が経験者だ。

この記事のようなことが、あっても不思議ではないと思った。

 

 

 

2017年〇月

その日、父が娘と待ち合わせたのは、東京都内の結婚式場だった。

娘は1カ月後、ここで花嫁になる。でも、結婚式に自分が呼ばれることはない。

もう新しいお父さんがいる。

こうして会っていることも、互いの家族には内緒なのだから。

 

 

「衣装合わせが終わったら、夕飯を食べに行こう」

そう娘に誘われ、夕方に1人、ここに来た。

だが、約束の時間を過ぎても、娘は現れない。

「式場を案内します」

スタッフに促され、人前式の板張りの部屋にやってきた。

突然、すべての照明が消えた。

大音量で流れる「結婚行進曲」

扉が開き、スポットライトの光の中を、

白無垢(むく)姿の娘と、紋付きはかまの新郎が入場してきた。

「どうなっているんだ?」

スタッフに連れられて控室に行くと、タキシードが用意されていた。

袖を通し、バージンロードの入り口へ。

娘の白い手が、そっと腕に添えられる。

2人で一歩、踏み出した。

参列者は、いない。

父と娘、2人だけのバージンロードだ。

 

 

18年前に離婚。

7歳だった娘は、2歳の息子とともに母親に引き取られた。

互いに新しい家族ができ、一切関わらないと誓った。

でも、初詣は子どもの健康と安全を祈った。

ネットで娘の通う高校を知り、文化祭に行ったが、顔は分からなかった。

 

そんな娘から、6年前の4月、手紙が届いた。

切手も差出人の名もない茶封筒が、郵便受けにあった。

〈私も今年で20歳になります。自分の人生について悩める程成長しました。

もし、ご家族に迷惑にならなければ会ってお話してみたいなと思い、連絡しました〉

娘もまた、会いたくて、父を捜していた。

 

お互いの存在を見つけてから、年に2回ほど、会っては食事をした。

父のためのバージンロード。

娘と新郎が考えたサプライズの演出だった。

何度も夢に見てきた。

夢の中でさえ、遠巻きに見つめるだけだった。

でも、いま、自分は娘と同じ光の中にいる。

(高橋美佐子)

 

どのニュース記事だったか忘れている。大変申し訳ない。

最後の(高橋美佐子)の記述は、記者の名前だろうか。

色々と考えさせられるニュースだ。