打ち合わせに…杖 (井手)

 

 

どうしても出席しなければならない「打ち合わせ」があり都内へ。

 

私は、電車で人混みの中を歩くのが好きではない。

 

その上、今は右足が痛くて困っていた。

 

それならば「杖をついて電車に乗ってみよう」と思った。

 

 

 

行きはそもそも住んでいる地域が田舎だから、楽に座っていける。

 

しかし都内に出たらどうだろう、楽しみである。

 

案の定、私の右足を引きずる動作に心が動いたのか、

 

私よりかなり年下の40代前後に見えるくらいの男性が直ぐに立って席を譲った。

 

「どうぞ!」

 

「いえいえ、ただの怪我ですから大丈夫です」

 

と丁重にお断りしたが、ちょっとオーバーに足を引きずりすぎたかな。

 

それにしても優しい男性だ。

 

 

打ち合わせの時も、必ず「どうしました?」とか

 

「年だから、そろそろ膝に?」なんて冗談とも本気ともつかぬ感じで話題は尽きない。

 

「人間足元が大事だよ」なんのこっちゃ??と思えるような切り返しで過ごす。

 

 

 

それでも普通に飲みに行く。

 

しっかり呑む。

 

酔ったら杖を忘れてトイレに行く。(笑)

 

(だから治るものも治らんのよ)

 

 

 

ちょいと贅沢をした。

 

ご馳走様でした。

 

挨拶を済ませて帰路に就く。

 

またまた山手線で席を譲られた。

 

「どうぞ!」

 

「いえいえ、ただの怪我ですから大丈夫です、ありがとう!」

 

世の中捨てたもんじゃない。

 

 

 

途中で乗り換え、西武池袋線に。

 

電車が人身事故で止まっていた。

 

西武線から再び山手線に乗り換え、もう一方の西武新宿線へ。

 

ここも人で溢れていた。

 

しかし何とか乗車杖が邪魔になる。

 

また来た。

 

「どうぞ!」

 

「いえいえ、ただの怪我ですから大丈夫です、ありがとう。これ仕舞います 」

 

と折りたたんでリュックに仕舞った。

 

 

 

帰路は往路に比べて倍の時間がかかったが、気分は悪くない。

 

心が温かい人ばかりだなあ。

 

日本は良い国よ。