二度目の大病に 後編 (MIORI)

 

大量の書類に記入を終えると母が

 

「お父さんが歯磨き粉のせいで心筋梗塞になったって言い張って、緊急搬送される前にずっと騒いでたのよ。歯磨き粉なんかでなるわけないのにね」と言った。

 

確かに先日、歯科治療の為、紹介状を書いてもらい東京の大学病院に行ったばかりだった。

 

そこで歯周病予防の歯磨き粉などを使用した方がいいと言われ

 

一緒に歯磨き粉を買いに行ったのだった。

 

 

 

そして、「私が持ってた歯磨き粉が『違う!!それじゃない!!』って言うんだけど、

 

あんた一緒に買いに行ったわよね?確認してくれる?」と母が言った。

 

テーブルの上の無造作に置かれた袋の中に、

 

父の常用している薬やお薬手帳や保険証などが入っていた。

 

その中に入っているというので探したが歯磨き粉が見つからない。

 

父が苦しい中にも入院の準備をしたらしく、数枚の下着や衣類、洗顔などが入っていた。

 

だが歯磨き粉だけがどうしても見つからない。

 

 

 

この中に入れたの?という私の問いに母が、「ちゃんと入れたわよえーと、あぁ!これこれ!」

 

バッと袋から取り出したのは

 

 

 

洗顔フォーム・・・!

 

 

(しかも下宿している長男のもの)

 

 

 

 

 

パニックだったのか普段からちゃんと見ていないのかわからないが、

 

母には洗顔フォームのチューブが歯磨き粉のチューブに見えたらしく、

 

緊急搬送される父が必死に違う!違う!と叫んでいたものは、洗顔フォームだったのだ。

 

 

 

そりゃあ違うと叫びたくなる気持ちも分かる。

 

そしてそれと同時に、すごく不謹慎だが、もし父が亡くなってしまっていたら…

 

父は母が持っていたものは歯磨き粉ではなく洗顔フォームだ

 

という事を伝えられずに死んでしまったと考えたら、さぞ無念だったろうとまで考えてしまい、

 

母のドジっぷりに緊張がほぐれ、思わず静まり返る病院内で大爆笑してしまった。

 

 

 

私の大爆笑に母は何が起こったのかわからないようだったが、

 

これは顔洗うやつだよと教えてあげると母も大爆笑していた。

 

ひとしきり笑った後、母と二人で静かな待合室の中、父の帰りを待った。

 

 

 

どれくらい経っただろうか。

 

看護師さんが来て、無事に手術が終わりましたと告げられた。

 

手術の事や、これからの事を先生がお話になるというので、父がいるCCUに案内された。

 

薄明りの中、夜も遅い事もあってか、少しやつれた様子の先生がいた。

 

先生から手術の内容を説明され、

 

ここで初めて手術前に父の心臓が一回止まった事を知らされた。

 

もし自宅で心停止になっていたら命の保証はできませんでしたと言う先生の言葉に、

 

出張先で心筋梗塞になっていたらと思い、

 

皆がいる自宅で症状がでてよかったと心から思った瞬間だった。

 

 

 

先生の説明を終え、少しだけ本人に会えるという事だったので、父のいるベットへ。

 

他にも4~5人の患者さんがいて、CCUとあってか皆、色々な器具に繋がれていた。

 

 

ここでやっと父と対面し、第一声が「水が飲みたい」

 

私も何度か入院したことがあるが、確かに、手術後麻酔から目が覚めると、

 

喉がカラカラで飲み物が欲しかったのを覚えている。

 

話をしている父を見てほっとしたのか、何か会話を交わしたのだが、あまり覚えていない。

 

10分程しか話せないと言うのでまた明日来ると言って病室を後にした。

 

 

 

帰り際、受付の時計を見ると針は4時近くを指していた。

 

病院に着いたのが0時過ぎだったので、こんなにかかっていたのかと

 

少し驚いたと同時にお腹が空いてきた。

 

帰宅前にコンビニに寄り母とカップラーメンを買い帰路についた。

 

至って普通のカップラーメンだったが、あの時食べたカップラーメンの味は今でも忘れられない。

 

きっと、このカップラーメンを見る度に今日の事を思い出すのだろうなぁと思った。

 

終わり

 

大変ご心配をおかけいたしましたが、もう大丈夫です。

本当にありがとうございました。

今後とも宜しくご指導ください。