主治医の優しさ (井手)

 

退院して1か月、検査の日を迎えた。

 

採血、心電図(12誘導)、X線単純撮影、そして循環器内科の診察である。

 

この日までの課題というわけでもないのだが、できればBMI25以下。

 

そして塩分は控えめの食事(1日摂取量6グラム以下)を心がける。

 

 

 

私はこの1か月で56キロ体重を落とした。

 

BMI25台に突入している。

 

塩分も1日当たりの摂取量より遥かに少ないはずだ。

 

 

 

全ての検査何の問題もなかった。

 

今後、何かない限り循環器内科に通うことはないが1年後には来院する。

 

それはカテーテル手術後のチェックのためである。

 

血管内に置いてきたステントの状態を観察しなければならない。

 

それまでダイエットと食事の改善を進めて理想の身体を作ろう。

 

 

 

では、私の心臓関係の薬はどこで処方するのかというと、

 

脳出血以来13年間、同病院の脳神経外科に月に1回通ってすっかり主治医がいる。

 

薬はこちらで一括して出していただくことになりそうだ。

 

カテーテルの術後、血圧は下がっている(大体そうらしい)ので

 

殆どが心臓関係の薬になるのだが

 

 

実は、主治医との前回の診察の時、この度の経緯(急性心筋梗塞)を話した。

 

先生は一瞬驚いた様子を見せたが、同系列の病院でもありカルテはその場で見られる。

 

真剣に眺めている先生の横で「私も見せてもらってよいですか?」と尋ねた。

 

「ああ、どうぞこちらへ」と答えてPCのモニターを少しだけ私の方に向けてくれた。

 

「井手さん、不死身だねえ」などと軽口をたたきながらカルテを読む。

 

私も調子に乗り「冠動脈の6番て…どれですか?」とか「じゃ、9番は?」

 

とか好き勝手に質問する。

 

私は6番が99%狭窄して、それをカテーテル手術で100%にしたのだ。

 

「…術中に不整脈を連発し心臓が微細動で、電気ショック」なるほど。

 

「運が良かったね、井手さん」

 

本人は何の意識もないので分かりませんでしたが、大体想像できました。

 

「家内に、今までありがとうって言ってから手術室に入るべきでしたよ」

 

先生の顔は笑っていたが過去の血液検査の結果を凝視している。

 

半年に1回、13年間続けているので26枚あるのだ。

 

「やはり検査の結果からは何の兆候も見て取れないなあ」

 

「私、13年間血液検査で引っかかったことがありません」

 

「大体、急性心筋梗塞だと悪玉コレステロールが増えるとか何かあるはずなんだけど」

 

私の主治医は頭を抱えていた。

 

 

 

この後、軽く世間話をしたり、電気ショックの火傷後を見せたりして談笑。

 

「で、次回は…」

 

「えっ、あのー先生、まだ血圧測っていませんけど」

 

~一瞬の間~

 

バツが悪そうに

 

「ごめん、忘れていたよ」

 

 

 

13年間、血圧測りに通っているのだ。

 

測らなかったことなど一度もない。

 

…先生がこんなに動揺しているのを見たのは初めてだ。

 

本当に申し訳なかったと思う。

 

優しい先生でありがたいが、病気を見つけるのは難しいこともあるのだ。

 

長生きしようっと。

 

 

 

では。