父のこと (井手)

 

 

自分の父と“おない年”になるなんて有り得ませんが、

 

亡くなった人間はそこから年を取らないからでしょうか。

 

どうしてもそんな気がしてしまいます。

 

私の父は「やくざ者」でした。

 

小学校低学年の頃、学校帰りは自宅ではなく賭場でした。

 

花札賭博や手本引きが主流でした。

 

 

 

 

ある賭場で、サブちゃんという若者が私のことをよく可愛がってくれました。

 

私も子供ですから、遊んでもらったり宿題を教わったりしていたのは覚えています。

 

そんな時、初めて気が付くのですが、父が字を書くのを見たことがありません。

 

苦手だったのでしょう。

 

明治45年生まれですし、お金持ちのお坊ちゃんでもありません。

 

どんな教育を受けたのかも何となく想像が付きます。

 

 

 

私が大学に入って、突然…10年振りくらいです…サブちゃんから電話がありました。

 

東京都立大に入学して間もない頃です。

 

呼び出され、大きくなったなあと感心しながらお酒の相手をさせられ、

 

帰り際に10万を持たされました。

 

何度も断り、恐縮する私に、お前のオヤジから借りていたものだと思ってくれ。

 

そう言われて最後は10万を掴まされ、サブちゃんは去っていきました。

 

何があったのかは知りませんが、その後、サブちゃんとは再会していません。

 

正月に、ひょいと思い出した大学時代のお話です。

 

では。